音楽はマジックを呼ぶ

映画フィッシュマンズを観る

涙は出ないけど身体の内側がガタガタ震えているのが分かった。観終わったあとケータイを開くとオリンピックの開会式がやっていたようだったが自分には関係ないことのように感じた。映画がそう思わせたのかもしれなかった。ヘッドフォンでLONG SEASONを聴いた。些細な思い出が浮かんでチラチラ光っては淡く消え、それを眺めているうちに自分の境界がぼやけていった。

音楽はマジックを呼ぶことと佐藤伸治が死んでしまったことを交互に考えた。「男達の別れ」で、だってみんないなくなると言った佐藤と俯いた柏原が印象的だった。どうでもいい人が去っていったって大したことはない。明治大学で、メルボルンで、ワイキキ・ビーチ・スタジオで、同じ夢を語り合った人との別れはそれだけ悲痛さに満ちていた。最後のライブが切実に見えれば見えるほど、メルボルンでの眩しい期待に溢れた毎日が鮮やかな色彩を伴って目に浮かぶようだった。

どれだけ良い音楽を作っても死んでしまって、でもなくなるわけじゃなく、本当の気持ちが滲んだ音楽だけが残り続けて、それがとても切ない。

目を閉じてフィッシュマンズを聴いていると宇宙の風景や懐かしい友達のことがよく分かるような気がするのだった。今は何も見えなくても気の合う人と会って塞ぎ込んでも10年経って何も出来ないままでも、フィッシュマンズの音楽が胸の中でいつまでも鳴っている、今はいいよって思える そんな感じで。終わり