幹細胞培養上清の謎

頬の辺りに直径1mmにも満たないニキビ跡が出来て小さな穴のようになり、それが気になり出すとどうにも気分が落ち込み、この穴が塞がらないなら死のうという気になってしまうので色々と治療法を調べたのだが、どうやら通常の皮膚科ではニキビ跡の治療は行っておらず、自由診療に縋るしかないことが判明した。そこで私は美容皮膚科の門を叩き、大きなモニターに若く美しくあることを脅迫されながら、跡になっている箇所に1ccだけ、奇妙な注射を打たれた。液体の正体は幹細胞の培養上清だという。私は細胞培養のプロフェッショナルであるから様々な疑問点が一挙に浮かんだのであるが、一般人に対する説明で一応、納得の姿勢をみせた。

なぜかその注射を打つと献血や臓器提供が出来なくなるとのことだった。幹細胞を移植するならともかく、たかだか培養上清であるのにこれはどういう理屈なのか。私は昔から臓器提供しようと考えていたためこれは結構ショックな出来事ではあったのだが、しかし崇高な志を持って臓器提供するにしても医療者には私の死体や臓器などを思いがけずぞんざいに扱われるだろうと思うので、まあええかと思った。ところが結局献血と臓器提供の権利を売ったのにも関わらず、今のところ治る気配はないので、やはり死のうと思った。終わり