内職者の美学

アンナ・カヴァン 氷 を読む

高橋弘希 指の骨/大岡昇平 野火 再読

野火、凄すぎる。

 

ホセ・ドノソ 夜のみだらな鳥 途中まで読む

これ読んでると本当に目眩がしてやや気持ち悪くなってくる。しかし目を離すとただでさえ意味不明なものが輪をかけて意味不明になってしまうので読み続けなければならない。早く終わってくれとさえ思う。あと100ページくらいか。幼稚園のとき魔女になりたいと言って親に止められた。魔女ほど安定しない職業もないだろうから無理もない。成人した今、体調に作用するようなまさしく魔術めいた本を読んで、大人の世界にもこういうのがあるという感じで嬉しい。具合は悪いけど。

 

よく知らない親戚の家のテレビでは必ず高校野球が流れている、仏壇に線香をあげる、よく知らない人の写真が並んでいる、お盆にしか見かけないお菓子がある。今年はどの親戚の家にも行かなかった。

 

高校時代、授業中はひたすら内職していた。 

あまりにも内職を愛しすぎて、3年になる頃には内職者としてのある種の美学、あるいは矜持のようなものが生じていた。内職の要件とは何よりもバレないこと、これに尽きる。大学でよく見かけたが、開き直って堂々と他の本を広げるなどの行為は論外である。そういったものは内職と呼ぶことは出来ない。そもそも内職とは差し迫った勉強の必要に駆られて行う行為であり、そうした動機が内職を内職たらしめる。漫然と日々を送る大学生にはそもそも全くそぐわない高等技術と言える。

一部の教師とは生徒への教育よりもむしろ声を荒げることに熱心なものであるが、そうした教師ばかりの過酷な環境下で日々の内職に打ち込んできた高校時分の私は、いかにスマートに、バレず、教師に声を荒げさせず、目的の勉強を成し遂げるかということに関して、最終的にほぼプロフェッショナルと言っていい領域に達した。

忘れないうちに具体的な方法について書き記しておきたいと思う。

まず授業科目の教科書類を机に高く積み上げる。教科書類が少ない科目だと言うなら、筆箱なども動員して高さを確保するのが良いだろう。その陰になるような所に、あらかじめ用意しておいたリングノートを設置する。内職の主役は自分で購入した参考書ではない。そんなものを広げたならば即座にバレてしまい、教師が声を荒げ、内職失敗である。そうではなく、リングノートに覚えたい事柄や解きたい問題を休み時間にでも記入しておき、あたかも授業のノートを取っている風を装いつつ、目的の勉強を行っていく。何故リングノートなのかという疑問だが、リングノートを使用することで机上の内職範囲を半分に抑えられる。内職範囲を抑えることはバレるリスクを抑えることに直結している。教師が巡回してきたらそしらぬ顔で次のページをめくれば良い。そこにあるのは単なる白紙であり、内職をしていた痕跡はあなたの脳内以外どこにもない、と このようなわけである。

私は内職のプロフェッショナルであっただけでなく睡眠のプロフェッショナルでもあった。気が向いたら睡眠者の美学もいつか披露したい。終わり